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研究報告 > カラーユニバーサルデザイン 推奨配色セット

色覚の多様性に配慮した 案内・サイン・図表等用のカラーユニバーサルデザイン 推奨配色セット
(色のバリアフリーに配慮した色見本)


これは古い第1版です(2009年6月発表)。
最新版は こちらです。


■ 東京大学分子細胞生物学研究所 高次構造研究分野 伊藤啓
■ 社団法人日本塗料工業会(JPMA)
■ DIC 株式会社(旧・大日本インキ化学工業株式会社) DIC カラーデザイン株式会社
■ 特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)

概略

  • 一般の人にも色の見え方が異なる人にも見分けやすい、カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットを作成。
  • 被験者実験を重ね、数千の候補色から20色を絞り込み。
  • 塗料業界の色指定の業界標準であるJPMA塗料用標準色2011年F版に対応色を収録。印刷・デザイン業界の色指定の業界標準であるDICカラーガイドシリーズから対応色を選出。

はじめに

 いわゆる色弱(色覚異常)の人や、緑内障など網膜の疾患を持つ人、白内障の人は、色によっては違いを区別しづらいことがあります。公共施設の案内表示・工業製品・情報機器・印刷物・報道・教科書などのカラー化がすすみ、色を用いた情報をどのような色覚の人にも分かりやすく伝えることへのニーズが高まっています。それぞれの色覚タイプでどのような色が見分けにくいかは視覚神経科学の分野で研究されてきましたが、どうすれば分かりやすいのかに関する研究はこれまでほとんどありませんでした。そこで被験者実験による調整を重ねて、どのような色覚の人にも比較的見分けやすい色を絞り込み、実用的な配色セットを策定しました。塗料業界と印刷・デザイン業界の色指定の業界標準が本結果を盛り込んで、それぞれの分野で普及を図る予定です。

1:推奨配色セットの内容

配色セットは、全20色(プラス代替色2色の22色)あり、4つのグループに分かれています。


CMYK 版 TIFF ファイル sRGB 版 TIFF ファイル
CMYK, sRGBの色合いはあくまで参考で、4色印刷やホームペー
ジでは違った色あいに表示されることがあるのでご注意ください。

● 小面積用の高彩度の色(アクセントカラー)

文字・サイン・線など、小さいものを塗りわけるのに使えるような、彩度の高い色です。

  • 赤  :色弱の人が赤と感じやすいように、オレンジ寄りの赤にしています。
  • 黄色 :白内障の人が白と区別しやすい、濃い黄色にしています。
  • 緑  :色弱の人が黄色や赤と間違えやすい黄色みの強い緑を避け、青みが強い緑を選んでいます。ただし青緑まで行ってしまうと、今度はグレーや紫と混同するので、それよりも緑に近い微妙な位置にしています。
  • オレンジ:赤がオレンジ寄りになっているのとバランスを取るため、少し黄色寄りのオレンジになっています。
  • 空色 :青との明度差を確保するため、少し明るめになっています。
  • ピンク:青みのピンクだと空色と混同することがあるので、やや黄みに寄せたピンクにしています。
  • 茶色 :明るめの茶色は赤や緑と混同することがあるので、暗めの色にしています。(ただし黒と間違えることがあるので注意が必要です。)
  • 紫  :青紫は青と間違えやすいので、赤みの強い紫にしています。

【備考】青と紫、黄色とベースカラーの明るい黄緑などは比較的混同しやすいので、なるべく片方のみ使用してください。

● 彩度をわずかに落とした代替色

 黄色と緑に関しては、少し彩度を落とした色も用意しました。ただしこれを使った場合、次に示すクリームや明るい緑とは混同しやすくなるので、同時には使えません。

● 大面積用の低彩度の色(ベースカラー)

地図や帯グラフなど、広い面積を塗りわけるのに使える色 です。色の差が小さいため、小さなものを塗りわけるには不適当です。相互に区別しやすく、なおかつ小面積用のアクセントカラーともなるべく区別しやすい色を選びました。

【備考】ベージュと明るい黄緑、明るい空色と明るい紫などは比較的混同しやすいので、なるべく片方のみ使用してください。

● 無彩色

「グレー」と「色」の差は、一般の人ほど明確ではありません。緑・紫・ピンクなどをグレーと混同することがあるため、逆にニュートラルグレーやウォームグレーに、色があるように感じてしまうことがあるためです。やや青みのあるグレーが一番誤認しにくく「無彩色」だと感じられることが分かったので、このような色調を用意しました。また、配色セットの中でグレーと誤認しやすいような色とは明度差を確保しました。


● 推奨セットを使った塗り分け 例

 それぞれの色のカテゴリーを保った範囲で、なるべく誰にでも見やすい色調に調整しました。


以上のように、 小面積用と大面積専用を分けることで、実用上十分な色数を確保しました。 案内図・グラフ等の図版・表示パネルなど幅広い用途に利用可能です。また、塗料と印刷という異なる媒体で、共通の指標を提供 することができました。従来はあまり交流がなかった2つの分野で、同じように色を指定できます。この配色セットが有効なツールになることを願っています。

リリース

● 日本塗料工業会塗料用標準色

  2011年F版(2009年5月会員予約受付開始)に推奨配色セットの色を収録します。全22色中、2009年E版から15色、新規追加が7色です。 その他、色弱の人に色みが分かりやすい色を7色追加 、色票に追加します。F版の一般発売は2011年1月末からとなります。 詳細は日本塗料工業会事務局にお問い合わせください。

● DICカラーガイドシリーズ

 最適な色調の組み合わせを最終調整中です。具体的なリリースについては、今後の発表をご覧ください。


関連プレスリリース

DIC株式会社(2009.04.30)

Q and A

Q:カラーユニバーサルデザインを実現するには、この配色セットを使わなくてはいけないのですか?

A:そういうわけではありません。この配色セットと違う色であっても、相互に見分けやすく工夫されていれば、カラーユニバーサルデザインになります。また、この配色の一部を利用して、それにデザイナーのオリジナルの色を加えることも可能です。ただし、これらの場合には、選んだ色がさまざまな色覚の人に見分けにくい色の組み合わせになってしまっていないかを、デザイン制作者自身がきちんとチェックする必要があり、それだけの時間・ノウハウ・コストが必要になります。推奨配色セットは、そうした手数を踏まなくても一定の見やすさを実現できるように作られました。

Q:自分には、これがいちばん見分けやすい配色だとは感じられないんですけど・・・?

A:この配色セットは、一般の色覚の人(C型)にとって従来あんまり馴染みのなかった色合いを使っている部分があり、多少違和感があるかも知れません。これは、従来の色調が色弱の人などにとって見分けにくく、バリアになっていたのを解消するための工夫です。また、色弱の人のことだけを考えれば、これよりももっと見分けやすい配色を作ることができます。しかしそうすると、一般の人にはもっと違和感が大きい、見分けづらい配色になってしまいます。網膜症や白内障の人についても同様です。特定のタイプの人の使い勝手だけを考えて、他の人が不便になってしまうのは良くありません。なるべく多くの人が同じように見分けやすいように工夫するということは、逆に言えばどのタイプの人にとっても、「自分にとっていちばん見分けやすい」ものにはならないということです。お互いが少しづつ譲り合うことでどの人にも使いやすくするというのがこの配色セットの根底の発想です。

Q:よく使われる色づかいと推奨配色セット、そんなに色が変わったようには見えないのですが?

A:どのような色を同じような色だと感じ、どのような色をずいぶん違う色だと感じるかは、色覚のタイプによって大きく異なります。一般の人にとっては、赤や緑やピンクや紫はちょっと色味が変わった程度にしか見えない場合もありますが、色弱の人などにとっては、かなり違う色に感じられます。

Q:このセットにある色は、どれを選んでも同じように見分けやすいのですか?

A:そうではありません。一般に、全ての人が間違いなく確実に色を見分けることができるのは、せいぜい数色だと言われています。しかし現実には、10色以上の色で塗りわけることが必要なケースも少なくありません。そのような場合に対応するために、この配色セットは、組み合わせによっては多少見分けにくいおそれがある色も含んでいます。同時に使う色数が少ない場合は、そのような色の組み合わせを選ばず、より確実に見分けやすい組み合わせを選ぶように注意する必要があります。見分けやすい組み合わせ、見分けづらい組み合わせの情報は、今後提供してゆきます。

Q:プリンターで刷ってみたら、画面とずいぶん色が変わってしまいました。どの色でもいいんですか?

A:この配色セットは色数が多いため、それぞれの色調が非常に細かく工夫されています。少し色が変わるだけで、見分けにくい組み合わせがとたんに増えてしまうことがあります。画面表示や印刷には、カラーマネジメントがきちんと調整された機材が必要です。正確な色調は、色票をご参照ください。

Q:RGB や CMYK の数値指定はないのですか?

A:マンセル色票と違い、RGB や CMYK は再現可能な色範囲が狭くなるため、色の選択が難しくなります。パソコン画面での表示やプロセス印刷での需要の大きさを考え、今後さらに調整を重ねて RGB や CMYK の推奨値も出してゆこうと考えています。


2:色が見える仕組みと色覚の多様性

 眼には杆体と錐体の2種類の光を感じる細胞(視細胞)があります。杆体は約1.5億個ありますが、暗い所だけで機能し、昼間はほとんど使われません。杆体は1種類しかないので、色を感じることはできません。一方錐体は、約700万個あり、明るい所だけで機能します。錐体には長い波長の光に反応するL細胞、中ぐらいの波長の光に反応するM細胞、短い波長の光に反応するS細胞の3種類があります。脳はこれら3種類の錐体の反応の差を計算して、色を判断します。

色覚の多様性を産む3つの要因

 色の見え方には様々な個人差がありますが、なかでも次の3つの現象は、色の見え方に大きく影響します。

● 錐体の感度特性を決める遺伝子の変異

 いわゆる色弱(色覚異常・色覚障害・色盲とも呼ばれる)の人は、遺伝子の変異によってL錐体またはM錐体のどちらかを持たないか、感度特性がずれています。
 P型(Protanope, 1型)
    強度:L錐体がない
   弱度:L錐体の感度がM錐体側に寄っている
 D型(Deuteranope, 2型)
    強度:M錐体がない、
   弱度:M錐体の感度がL錐体側に 寄っている

 男性の5%, 女性の0.2%(欧米では男性の8〜10%, 女性の0.5%) がこのような眼を持っており、頻度から推計すると、日本では推定320万人存在することになります。青〜紫、緑〜赤など、赤みの違いに鈍感です。一方青みの違いや明暗の弁別には敏感で、視力には変化がありません。

● 網膜の疾患(ロービジョン)

 緑内障・網膜色素変性症・黄斑変性症・糖尿病性網膜症・未熟児網膜症などの網膜の疾患では、視細胞が減少して最悪の場合失明しますが、その前にもともと数が少ないS錐体が最初に全滅してしまいます。日本では、軽度から失明まで合わせて推定数十万人居ると眼科医は推計しています。短い波長を感じるS錐体がないため、T型(tritanope)に近い見え方となり、色弱とは逆に緑〜青など、青みの違いに鈍感です。また明暗の弁別にも影響があります。視力が極端に低下し、視野狭窄なども起こるため、色の見え方の違いよりも視力の低さの方が問題になることが多いですが、色の問題も無視できません。

● レンズ(水晶体)の着色

  白内障では、水晶体が黄色く濁るために長波長の光を通さなくなります。このため紫〜青が暗く見えます。また視野全体が黄色く濁るため、明るい黄色と白の区別がしにくくなります。光が散乱するため視力も低下します。水晶体を人造レンズに置きかえる手術をすると、濁りはなくなりますが、眼のピント調節ができなくなります。日本では百数十万人が医者にかかっています。


3:カラーユニバーサルデザインへの社会的要請

 カラーユニバーサルデザインが注目されだしたのには、2つの要因があります。

● 色による情報伝達の急速な増加
 塗装・印刷・コンピューター技術の発展によって、従来は白黒表示だった様々なものが急速にカラー化してきました。たとえば
  ・公共施設の案内表示・サイン・案内図
  ・家電製品・OA機器などの操作パネル
  ・電子機器・携帯電話などの操作画面  
  ・新聞・テレビ等の報道メディア
  ・教科書などの教材

 これらのメディアでは、色分けによって情報を伝えやすくしたつもりが、かえって一部の人には情報が伝わりにくくなるケースが出てきました。

● 不便を感じる人への理解が進んだ

  以前は「傷害者」は不便が多くて当たり前だという意識が強かった面がありました。しかしバリアフリーやユニバーサルデザインの思想の普及により、当事者でなく社会の側も、不便に対応するような工夫をしてゆこうという意識に変わってきました。

 このため、最近は以下のような様々な取り組みが進められています。

● 自治体発行のガイドライン (2004〜)

 2004年以来、多くの自治体(県、市区町村)が色のバリアフリー/ユニバーサルデザインに関するガイドラインを発行しています。(神奈川県、埼玉県、静岡県、山口県、茨城県、東京都足立区、中央区、世田谷区などがあります。)

● JISアクセシビリティー (2006制定、2008にISO化)

 コピー機・複合機などオフィス用の電子機器の業界団体が中心となって策定した「JIS X8341-5 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信に おける機器,ソフトウェア及びサービス−第5部:事務機器」では、操作ボタンや画面、パイロットランプなどに、色覚に対する配慮をするように盛り込んでいます。

● バリアフリー新法のガイドライン (2007)

 バリアフリー新法では、従来よりも対象者を広く捉えるようになり、公共施設・交通機関の案内表示やサインについて、色覚に配慮した配色とデザインの必要性を明記しています。

● 文部科学省・色覚に関する指導の資料 (1989, 2003)

 授業・教材・進路指導などに関する主な内容をカバーしたハンドブックを作成し、全国の学校に配付しています。一方で、2003年より教科書の本文のカラー化が解禁になり、多くの教科書がフルカラーになりました。このため、現行教科書では見分けづらい表記や図版が問題になっています。文科省では新しい教科書の検定に際して、色覚によく配慮するように教科書会社に要請しています。


4:従来の研究の問題点

 以上のような社会の流れの中で、視覚に関する科学研究はどのような貢献をしてきたでしょうか?



 本来は3種類あるはずの錐体が2種類しかない場合、どのような色が見分けにくくなるかは、古くから研究されてきました。上の図のように色をCIE xy色度図という方法で座標に表すと、どれかの錐体が無い人が見分けにくい色は、グラフのうえでほぼ一直線に並びます。これを「混同線」といいます。混同線の理論は、1950年代には完成していました。(L. C. Thomson & W. D. Wright, 1953; D. Farnsworth, 1955)。

 しかし、どのような色が見分けにくいかが理論的に分かっていたにもかかわらず、それから50年以上経った今でも、そうした見分けにくい色が世の中にはあふれています。科学者は、研究結果を論文として発表したら、ついそれで満足してしまう傾向があります。しかし 実社会の色を決めているのはデザイナーや設計者で、これらの人は学会にも行かないし、学術雑誌も読みません。こうした人に研究成果を伝える努力は、残念ながらこれまで十分にされてきませんでした。

 また、混同線の理論は、そのままでは実際のニーズに応えられません。 CIE色度座標を知るには特殊な測定器が必要なため、工場の品質管理などごく一部を除いて、色関連の業界の現場ではほとんど使われていません。

 このような状況をふまえた上で、ヒトの色覚に関する研究成果を実際の社会に反映させようという発想が、科学者の間にはこれまでほとんどありませんでした。医学・生物学の研究者は、薬や治療法の開発以外には、自分たちが社会に貢献できることがあるという意識が薄い面があるのは否めません。

● 見分けにくい色の理論をデザイン現場に応用

 私たちは、このような状況に対して科学者がより具体的な貢献ができるように、いくつかの試みを行ってきました。その一つが、色弱の人が混同しやすい色を1つの色にまとめて変換することで、元の図の見分けにくさをチェックするツール(いわゆる色弱シミュレーションソフト)の開発です(石川県工業試験場前川博士との共同研究)。この種のソフトは以前からいくつか発表されていますが、私たちのものは多くの色弱被験者による様々な変換式パラメーターの比較検討によって、幅広い色範囲で高い色変換精度を持っているのが特徴です。また、従来のものがホームページからのダウンロードなど、興味を持った一部の人にしかアクセスできない方法で提供されていたのに対し、色を扱う業界に広く普及しているソフト・ハードの制作会社のこの機能を提供して、製品の標準搭載することで、普及啓発を図っています。ソフト関係では、Adobe社のイラストレーターとフォトショップのCS4版(2008年発売)の全世界版に、CUDソフトプルーフ機能としてこの機能を搭載しています。また、ハード関係では、ナナオ社の高画質液晶モニターシリーズ(2007〜)に、UniColor Proというリアルタイムの変換機能を標準搭載し、静止画だけでなく動画の高速変換も実現しています。   

● 色チェックツールだけでは不十分

 しかし、このようなチェックツールは、「どのような配色が見わけにくいか」しか示すことができません。見分けにくいことが分かったとして、それをどのように色合い調整すれば見分けやすくなるかを工夫するには、経験とノウハウが必要です。また、色チェックツールの精度にはどうしても限界があるので、実際の被験者を使った検証実験も欠かせない場合があります。

 そこで、「どういう色なら見分けやすいのかを具体的に知りたい」、「この中から色を選べば一定の見分けやすさを確保できるような色のセット」を示して欲しい、という要望が多く寄せられてきました。これに応えるため、

   ・実生活で利用頻度が高い色で、
   ・当事者によって見分けやすさを検証した、
   ・多色の配色セットを作成する。

 というプロジェクトを行うことにしました。


5:推奨配色セットの作成

 このような配色セットには、以下のような特性が要求されます。

● 色名を想起しやすい色のセットであること

 人間は、赤・オレンジ・黄・緑・青・紫・ピンク・茶色・ベージュ・クリームなどの「色名」を使ってコミュニケーションします。色名を表現しにくい微妙な中間色でなく、色名を表現しやすいような色調を選ばないと、実用性の低いものになってしまいます。

● 塗装・印刷などで実現可能な色の範囲に納まっていること

  眼が知覚できる色の中で、塗装や印刷に利用できる色の範囲は限られます。理論的にいくら見分けやすくても、この範囲を超えた色を使ったのでは、実用上意味がありません。

● 塗装と印刷で同じような色のセットを作ること

 案内やサインは、塗装された現物と同時に、印刷物でも提供されることが多いのが実情です。従来は、塗装は塗装、印刷は印刷で、相互に関連なく色指定のシステムが動いていましたが、この配色セットでは同じような色を塗装でも印刷でも再現できることが必要です。

● 選ばれた色が、正確な色調で、幅広く利用可能になっていること

 特殊で高額な測定器を使わないと色調を指定できないような方法ではなく、色を扱う現場のすべての人が分かりやすい方法で、色を提供する必要があります。

日本の社会の色は「色票」で決められている

 塗装業界・印刷業界には、それぞれ業界標準の色票があり、それを用いて色を指定するのが一般的です。色票の色は厳密に管理され、色番号を指定すればその色が塗装・印刷されるように品質管理がされています。従って、業界標準の色票を使って見分けやすい配色を指定するのが、もっとも確実で実用的な方法です。

 幸い、塗料業界の色指定の業界標準であるJPMA塗料用標準色を発行している社団法人日本塗料工業会と、印刷・デザイン業界の色指定の業界標準であるDICカラーガイドを作成しているDIC株式会社/DICカラーデザイン株式会社の協力を得て、これらの色票システムをベースにした見分けやすい配色セットを作ることになりました。

プロジェクト参加企業・団体の紹介

日本塗料工業会(JPMA)は1948年設立、1986年社団法人化 した業界団体で、塗料製造メーカーおよび団体からなる正会員(96社)と、 関連業界の賛助会員(167社)からなります。塗料用標準色を発行 し、隔年で改訂しています(現在は2009年E版)。この色票は 1,500色の元帳から、社会動向に応じて使用頻度の高い600〜650色を選んで収録しています。塗装されているものの多くは、JPMA色票で色が指定されています。今回は色票の見本や元データの提供、新しい候補色の調色などの協力を得ました。

DIC株式会社は1908年創業、 1962年に社名を大日本インキ化学工業株式会社に変更 し、2008年に社名を現在のDIC株式会社に変更しています。印刷インキでは世界トップシェアで、有機顔料・合成樹脂なども提供するファインケミカルメーカーです。パート1、パート2、日本、フランス、中国の伝統色の5部からなるDICカラーガイドシリーズは、2,230色を収録し(2009年4月現在)、印刷だけでなくデザイン関係の色指定などでも非常に幅広く使われています。またDICカラーデザイン株式会社は、2000年設立のDIC株式会社100%出資の子会社で、DIC株式会社の色彩技術をベースとした、色彩管理に関するノウハウをもとに、カラーコンサルティング・カラー調査・カラー管理・カラーセミナーなど、カラーを機軸としたソリューションを提供しています。今回は色票の見本や元データの提供、新しい候補色の調色、候補色の選考などの協力を得ました。

カラーユニバーサルデザイン機構は2004年設立 の、科学者、デザイナー、色弱の当事者で組織されたNPO法人です。製品・施設・出版物・教科書などのデザインを色弱の当事者等がチェックして、色覚に応じた見分けやすさに関する問題点と改善法を指導し、従来のものより向上していると推奨できるものにマークを認定います(2008年末現在、約240件)。これまでもテレビリモコン・電子番組表・駅時刻表などの配色の調整に協力しています。今回は色に関する詳しい知識を持った色弱被験者や、配色ノウハウの協力を得ました。

色覚タイプの間での利害を調節

 上掲の図にあるように、見分けにくい色が並ぶ方向は、色覚のタイプによって異なります。そのため、ある色覚の人に見分けやすい色は、他の色覚の人には見分けにくいことがあります。そこで、人数が圧倒的に多い一般の人(C型)に違和感がないこと 、次に人数が多い色弱の人(P, D型)にとって十分に見やすいこと 、ロービジョンの人(T型)にとって不利益にならないこと 、白内障の人への黄色、青の見やすさを確保すること、などを考慮して、利害を調整しながら配色を選びました。

ある色に感じられる範囲が一般の人よりも狭い


 一般の人は、非常に広い範囲の色を「赤」や「緑」の色に感じ、その中のわずかな色の違いは、色名の認知という点ではあまり影響しない傾向があります。一方色弱などの人は、同じ赤や緑でも色調によっては他の色と紛らわしく感じるため、明確に「赤」や「緑」に感じられる色の範囲が狭くなっています。このような範囲の色を選ぶことが必要になります。 (他の色でも同様です。)

従来の色票でカバーしきれない色を新規作成

 ひとつの例として、「消火器の赤」(JPMA色票E07-40X マンセル色相7.5R)は一般の人には赤く見えますが、色弱の人には黒っぽく地味に見えることがあります。一方、「東京タワーの赤」(E09-50X マンセル色相10R)は、色弱の人には鮮やかな赤に見えますが、一般の人には赤というよりもオレンジに近く感じられます。従来のJPMA色票では、この2つの「赤」の中間には、色票が設定されていませんでした。そこで、色弱の人にも鮮やかな赤に感じられ、一般の人にもオレンジでなく赤に見えるぎりぎりの色として、両者の中間のマンセル色相8.75Rの色票を、新たに作成しました。

作業の経緯

 本プロジェクトは、2007年秋に開始しました。まず、JPMAとDICの色票を吟味して、場合によっては追加を検討する新規色の選定や試作調色を行いました。次に、これら二千種以上の色票から、一般色覚の人が「○○色である」と色名を認知しやすい色票を抽出しました。(色名を認知しにくい微妙な中間色は、この段階で除外されました。)この結果、30数色のグループが選ばれました。

 この中から、色弱の人が「そのような色名の色には見えにくい」と感じるものを除外してゆきました。この結果、非常に多くの色票が除かれました。
 一般色覚の人が選んだ色
 色弱の人が紛らわしいと感じる色を除外

 次に、残った色票の中から、色弱の人が相互に区別できる色の組み合わせを選抜してゆきました。他の色とどうしても見分けにくくてぶつかってしまう色のグループは、この段階で除外されました。

 2008年4月には、色関係の見本市「カラーセッション」で、DIC株式会社が試作版の公開を行いました。その後被験者の種類と数を増やして、さらに見分けやすさを検証し、色調の再調整と絞り込みを行いました。色弱の人約10人と一般色覚のデザイナー数名が参加した検討会(1回8〜10時間)をこれまでに4回行い、述べ40名程度の色弱の被験者の参加を得ました。また、白内障の手術経験者と未熟児網膜症の人(各1名)の協力によって、S錐体が少ない場合や白内障への対応も行いました。

 以上の結果より、第1版として全20色の配色セットを2009年4月末に公開しました。

 

挿話:このプロジェクトは作業チーム内部では神田川プロジェクトと呼ばれています。「神田川」という歌の2番で、「あなたはもう捨てたのかしら/二十四色のクレパス買って/あなたが描いた私の似顔絵/うまく描いてねって言ったのに/いつもちっとも似てないの」という歌詞があります。彼氏が買っても色を間違えにくいクレパスのようなセットを作ろうという企画です。


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